総パラメータ 320B・アクティブ 18B。Z.ai が8月26日に正式公開した GLM-5.3-Flash は、GLM-5 系で初めてのネイティブマルチモーダルだ。掲げられた「GLM-5.2 比で約1/10 の価格」は公称値で、公称値のままでは自分のジョブの請求額にならない。OpenRouter 経由で5回投げて実費を取ったところ、同じ入力・temperature 0 でも最小と最大で1.36倍の開きが出た。
目次
ライセンスは条文で確認した
配布ページのタグは MIT と出る。タグだけで商用利用や再配布の条件を書くと読者の判断を誤らせるので、LICENSE ファイルの条文そのものを読んだ。
標準の MIT ライセンス本文で、権利者は Copyright (c) 2026 Z.AI Co., Ltd。許諾文は Permission is hereby granted, free of charge, to any person obtaining a copy of this software から始まる定型で、使用・複製・改変・結合・公開・頒布・サブライセンス・販売までを条件付きで認める文面だった。条件は著作権表示とライセンス文の保持で、これも定型どおり。
タグと条文が一致していた。
当サイトはモデルファイルを配布しないし、ミラーの案内もしない。試す場合は公式配布元から各自取得する形になる。
公開時の経緯として書けなかったこと
収集時の要約には「Ox Alpha」という匿名エンドポイントで6日間コミュニティに検証されていた、という経緯が付いていた。Hugging Face のモデルカードを読んだが、この名称にも匿名エンドポイントでの検証期間にも触れていない。裏取りできる一次ソースを確認できなかったので、本稿では扱わない。
コンテキスト長も、情報源によって数字が違った。OpenRouter のモデル一覧が返す値は 1,310,720 トークン。モデルカードのほうは、評価に使った最大コンテキストとして 300,000 トークンを挙げている。前者は経路が受け付ける上限、後者は評価条件で、そもそも別の量を指している。「1M トークン対応」と一言で書くと、どちらの意味でも正確でなくなる。
手元で動くかは別の話
アクティブ 18B という数字を見て「18B なら手元でも」と読むと外す。MoE は推論時にアクティブなパラメータだけを計算するが、ウェイトそのものは総パラメータぶんを置いておく必要がある。
総 320B のモデルを、筆者の 8GB VRAM 環境で受け止める道は無い。
オープンウェイトと「手元で無料」が別物だという整理は、Kimi K3 のオープンウェイトの規模とコストを見た回で一度やった。ローカルで動くかどうかの線引きはInkling をローカル向きではないと判断した回と同じ考え方になる。筆者にとって現実的な経路は API で、測定もそちらで行った。
5回投げて取った実費
OpenRouter に z-ai/glm-5.3-flash として載っていた。表示単価は入力 $0.075 / 100万トークン、出力 $0.25 / 100万トークン。
測ったのは構造化抽出だ。短いリリースノートを渡して、指定した5つのキーを持つ JSON だけを返させる。筆者の週次ジョブが実際にやっている形に近く、成否を機械で判定できる。同じ入力を temperature 0 で5回投げ、応答の usage と、OpenRouter の generation エンドポイントが返す実費・プロバイダを記録した。
run 1: 5.88s in=178 out=222 cached=0 cost=$0.00006885 provider=Z.AI json=OK
run 2: 5.06s in=178 out=242 cached=128 cost=$0.00006617 provider=Z.AI json=OK
run 3: 5.77s in=178 out=257 cached=128 cost=$0.00006992 provider=Z.AI json=OK
run 4: 5.03s in=178 out=258 cached=128 cost=$0.00007017 provider=Z.AI json=OK
run 5: 4.27s in=178 out=183 cached=128 cost=$0.00005142 provider=Z.AI json=OK
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 成功率 | 5/5 |
| JSON 取り出し | 5/5 |
| 所要時間 | 中央値 5.06 秒 / 最小 4.27 / 最大 5.88 |
| 実費 | 中央値 $0.0000689 / 最小 $0.0000514 / 最大 $0.0000702 |
| 5回の合計 | $0.00033 |
| 入力トークン | 178(5回とも同一) |
| 出力トークン | 183 〜 258 |
| プロバイダ | Z.AI(5回とも同一) |
効いていたのは出力トークンの振れだった
入力は5回とも178トークンで固定されている。temperature も 0 にした。それでも出力が 183 から 258 まで振れ、実費が最小と最大で1.36倍違う。
同じ問いに同じ設定で答えさせても、請求額は一定にならない。
これが公称単価から見積もると外す理由だ。単価は掛け算の片側でしかなく、もう片側のトークン数はモデルが決める。「約1/10」という倍率は単価の比であって、請求額の比になるとは限らない。単価表と実出力の差で結論が動く話はGemini 3.6 Flash を実出力トークン×単価で見た回でも書いた。推論に使われたぶんが出力トークンに積まれるモデルだと、倍率どおりには安くならない。前回の V4-Flash がそれで、903字の応答に出力15,628トークンが記録された回があった。
今回の GLM-5.3-Flash に、その症状は出ていない。返させたのはキー5つの JSON で、出力183〜258トークンはその中身がそのまま収まる範囲だ。応答の外側で数千トークンが積まれる形にはなっていない。応答本文そのものの文字数は記録していないので、比較できるのはこの桁の粗さまでになる。
キャッシュが効くと、実費は計算値を下回る
1回目だけ cached_tokens が 0 で、2回目以降は 128 が乗った。同じプロンプトを繰り返したので、入力側の一部がキャッシュに乗ったことになる。
この差が請求に出る。表示単価から手で計算した理論値と、実際に請求された額を並べるとこうなった。
| run | cached | 単価から計算 | 実費 | 差(絶対額) | 同(率) |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 0 | $0.00006885 | $0.00006885 | $0(基準) | 0% |
| 2 | 128 | $0.00007385 | $0.00006617 | $0.00000768 | 10.4% |
| 3 | 128 | $0.00007760 | $0.00006992 | $0.00000768 | 9.9% |
| 4 | 128 | $0.00007785 | $0.00007017 | $0.00000768 | 9.9% |
| 5 | 128 | $0.00005910 | $0.00005142 | $0.00000768 | 13.0% |
率の列は 9.9% から 13.0% まで散らばっている。絶対額の列は4回とも $0.00000768 で、小数8桁まで同じだ。
散らばっていたのは分母のほうだった。
割引は入力側にしか効かない。キャッシュに乗った128トークンが表示単価の2割で課金されるので、割引額は 128 × $0.075 ÷ 100万 × 0.8 = $0.00000768 に固定される。率が動いて見えるのは、割る相手(出力トークンで決まる総額)が回ごとに違うからでしかない。
この記事の前半で書いたことを、自分の表でやりかけた。単価は掛け算の片側でしかない、と書いておきながら、率も割り算の片側でしかないことを見落としていた。「キャッシュが乗ると約10%安くなる」を出力10倍のジョブに当てはめると、節約額を10倍に見積もることになる。割引は $0.0000077 のままだ。
キャッシュに乗らなかった1回目は、表示単価どおりの額が小数8桁まで一致した。単価表そのものは正確だ。ずれるのは、キャッシュ割引を計算に入れていない側にある。
前回の測定では、入力を固定した設計がプロンプトキャッシュを持つモデルだけを安くして、比較を一度崩した。同じ罠を踏まないよう cached_tokens と provider を最初から記録に入れたのは、その持ち越しだ。今回はプロバイダが5回とも Z.AI で揃ったので、単価の特定に迷いは出ていない。
乗り換えの判断は、まだ出していない
筆者の週次ネタ帳は、収集した X のポストを LLM に要約させる工程を OpenRouter 経由で回している。既定モデルは Claude Sonnet 5。乗り換えるかどうかは、同じジョブに両方を載せて並べてから決める。
今回測ったのは GLM 側だけで、Sonnet 5 との同一条件の比較は行っていない。判定基準への当てはめもまだだ。
基準は先に置いてある。DeepSeek-V4-Flash-0731 を同じ要約ジョブで測った回で2回外した反省を織り込んだ4つになる。
- 5回とも JSON が取り出せること(今回の測定では 5/5 で通過)
- 入力に無い事実の混入が0件であること(前回は観測結果だったので基準に上げた)
- 実費の差が月あたり数十円の規模に収まるなら、そもそも替えない
- 所要時間の最悪値が収集ジョブの12分上限を破らないこと(前回はこれが決め手になった。今回の最大は5.88秒で、単発では問題にならない)
基準を後から書くと、出てきた数字のほうへ基準が寄っていく。だから測る前に書いて、測ったあとで動かさない。
ネイティブマルチモーダルは今回の測定範囲に入れていない。要約ジョブの入力はテキストだけで、画像を混ぜた検証は別の設計が要る。
一次ソース
- GLM-5.3-Flash(Hugging Face・zai-org) — ウェイトの公式配布元・モデルカード
- 同リポジトリの LICENSE 本体 — MIT ライセンス条文
- OpenRouter models API(
z-ai/glm-5.3-flash)— モデルIDと表示単価の取得元
関連記事
- DeepSeek-V4-Flash-0731 を同じ要約ジョブで測った回
- Kimi K3 のオープンウェイトの規模とコストを見た回
- Gemini 3.6 Flash を実出力トークン×単価で見た回
- Inkling をローカル向きではないと判断した回
まとめ
この価格帯のモデルを検討しているなら、公称の倍率で見積もらず、自分の入力を5回投げて出力トークンの振れを見たほうが早い。5回で $0.00033 しかかからない。筆者はそれで、単価表が正確であることと、請求額が単価表どおりにならないことを同時に確かめた。
GLM-5.3-Flash について今回言えるのは、構造化抽出を5回とも落とさず、推論ぶんの出力上乗せが観測されず、プロバイダが安定していた、という3点だ。乗り換えるかどうかは、同じ台に Sonnet 5 を載せてから書く。