入力100万トークンあたり$3、出力$15。Moonshot AI が2026年7月16日に公開した「Kimi K3」の価格だ。前世代の Kimi K2.6 は $0.95 / $4 だったので、入力で3.2倍、出力で3.75倍の値上げになる。オープンウェイトのモデルが、Claude や GPT と同じ価格帯に並んだ。
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Kimi K3 は何が変わったのか
公式クイックスタートによると、総パラメータ2.8兆、896エキスパート中16をアクティブ化する MoE 構成。コンテキストは100万トークンで、max_completion_tokens は既定131,072・上限1,048,576。画像と動画をネイティブ入力として受け取る。完全な重みは2026年7月27日までに公開予定と明記されている。
独自技術として Kimi Delta Attention と Attention Residuals が挙げられている。
ベンチマークは SWE-bench Verified 76.8%、GPQA Diamond 93.5%。他社との比較値も出回っていて、FrontierSWE では K3 が 81.2 に対して GPT-5.6 が 71.3、Claude Fable 5 が 86.6。Terminal-Bench 2.1 は GPT-5.6 が 88.8 で K3 の 88.3 をわずかに上回る。Artificial Analysis の総合指数では57でフロンティア勢の4位という集計もある。
目を引くのは LMArena の Frontend Code Arena で、1,679点の1位に立ったと報じられている。この項目では Claude Fable 5 を上回る。
ここまでは各所が報じている内容だ。個人開発者として気になるのは、この値上げをどう受け止めるかだと思う。
表示価格と、実際に払う額は違う
筆者はモデルを常に最上位で固定せず、タスクの難度で使い分けている。Claude Code の設定も opusplan(設計は Opus、実行は Sonnet)を常用にしていて、モデルを意識するのは設計で詰まったときだけだ。だから新しいモデルを見るときは、性能表よりも先に「自分の使い方でいくら払うことになるか」を計算する。
公式の価格表はこうなっている。
| モデル | 入力(キャッシュヒット) | 入力(ミス) | 出力 |
|---|---|---|---|
| kimi-k3 今回 | $0.30 | $3.00 | $15.00 |
| kimi-k2.6 | $0.16 | $0.95 | $4.00 |
注目したいのは入力のキャッシュヒットとミスで10倍の差があることだ。公式はコンテキスト長による段階課金は無いと明記している。長い前置きを固定しておけば自動でキャッシュに乗るので、プロンプトの組み方だけで入力コストが一桁変わる。
そして出力側には、表示価格からは見えない負担がある。
SVG 1枚に25セント
Simon Willison が2026年7月16日に公開した実測が分かりやすい。恒例の「ペリカンが自転車に乗る SVG を描かせる」テストを K3 に投げた記録だ。
- 入力 95トークン
- 出力 16,658トークン(うち推論トークンが13,241)
- コスト 25セント
絵を1枚描かせて約38円。出力16,658トークンのうち8割が推論トークンで、実際の SVG コードはごく一部だ。K3 は思考モードが常時オンで、無効化する手段が公式ドキュメントに見当たらない。安価な非思考版も用意されていないので、単純なタスクでも推論トークンが乗り続ける。
$15 / 100万トークンという数字だけ見て「Claude と同じくらいか」と判断すると、この部分で計算が狂う。
同じ記録の中で Willison は別のことにも触れている。入力95トークンという数え方について、通常のトークナイザ換算だと10トークン程度のはずで、85トークン分の隠しシステムプロンプトがあるのではないかという指摘だ。確定した話ではないが、入力側にも見えない上乗せがある可能性は頭に置いておきたい。
筆者が新しいモデルを試すときに必ず請求明細を見るのは、5月に廃止済みの API 機能を全経路へ入れて全滅させた経験があるからだ。あのときも事前の想定と実際の挙動がずれていた。表に出ている数字と、自分の口座から出ていく数字は別物として扱っている。
とりあえず叩いてみる
API は OpenAI 完全互換で、エンドポイントは https://api.moonshot.ai/v1。既存の OpenAI SDK がそのまま動く。
curl https://api.moonshot.ai/v1/chat/completions \
--header "Authorization: Bearer $MOONSHOT_API_KEY" \
--header "Content-Type: application/json" \
--data '{
"model": "kimi-k3",
"messages": [{"role": "user", "content": "Introduce Kimi K3 in one sentence."}]
}'
Python なら OpenAI SDK のクライアントにベース URL を差し替えるだけで済む。
completion = client.chat.completions.create(
model="kimi-k3",
messages=[{"role": "user", "content": "Introduce Kimi K3 in one sentence."}],
)
print(completion.choices[0].message.content)
思考の強さは reasoning_effort で指定する形になっている。
completion = client.chat.completions.create(
model="kimi-k3",
reasoning_effort="max", # low / high / max(既定 max)
messages=[{"role": "user", "content": "Prove that the square root of 2 is irrational."}],
)
ここは注意が要る。公式ドキュメントは low / high / max の3値を挙げているが、Willison は OpenRouter 経由で「現状 max ひとつしか効かない」と報告している。筆者はまだ実測していないので、コストを抑える目的で low を当てにする前に、自分の環境で請求額の差を確かめたほうがいい。
画像を渡す場合は、ここが移植の壁になる。
import base64
from pathlib import Path
image_data = base64.b64encode(Path("image.png").read_bytes()).decode()
completion = client.chat.completions.create(
model="kimi-k3",
messages=[{"role": "user", "content": [
{"type": "image_url",
"image_url": {"url": f"data:image/png;base64,{image_data}"}},
{"type": "text", "text": "Describe this image."},
]}],
)
先に踏んでおきたい落とし穴
移植で引っかかりやすい点が公式ドキュメントに書かれている。
- 画像は公開 URL を受け付けない。base64 か
ms://<file-id>形式のみ。OpenAI からコードを持ってくるとここで落ちる - OpenRouter のモデル ID は
moonshotai/kimi-k3。moonshot/と書くと404になる。初回の失敗理由として最も多いと報じられている - temperature や top_p、penalty 系は固定値。公式が「リクエストから省くこと」と指示している
- OpenRouter と公式で K2.6 の価格表示が違う(OpenRouter は $0.66 / $3.41)。比較記事を書くなら出典を揃えないと数字が合わなくなる
有料サービスはまず無料枠や既存の契約で試してから課金価値を判断する方針なので、筆者なら OpenRouter 経由で数リクエスト投げて実費を見る。公式アカウントを新規に作らなくても、モデル ID を差し替えるだけで試せる。
キャッシュヒット率を前提に設計する
$3 と $0.30 の10倍差は、プロンプトの組み方次第でコストが一桁変わるという意味になる。
やることは単純で、リクエストのたびに変わらない部分を先頭にまとめ、変わる部分を末尾に置く。システムプロンプト、ツール定義、参照させたい固定の資料を前に固め、ユーザーの入力や可変のコンテキストを後ろに寄せる。前半が一致していればキャッシュに乗る。
前置きを毎回組み替えたり、タイムスタンプを先頭に入れたりすると、そのたびにキャッシュが外れて $3 の側で課金される。同じ処理をしていても支払いが10倍違う、という状況は避けたい。
手元で動かす話はまだ早い
「重み約1.4TB」という数字が各所で流通している。追いかけてみると、出所は Hugging Face のブログ著者による計算(2.8兆 × 4bit ÷ 8)で、Moonshot が公表した仕様ではなかった。
誰も一次ソースを見ていない数字が既成事実として広まる、というのはよくある。今回は暗算の結果が独り歩きしていた。ライセンスも K2 系の踏襲と報じられているだけで、本稿執筆時点では未公表だ。
必要 VRAM についても信頼できる公式値は存在しない。二次情報は「最低 4×H100 80GB、実用は 8×H100」としているが、これも重みが出ていない段階での推定になる。蒸留版や小型版の公式アナウンスも見当たらない。
重量級モデルは E: ドライブに1実体だけ置いて全プロジェクトから参照する運用にしている。同じモデルを複数の場所にコピーしないためだ。その E: をもってしても、数百 GB 級のモデルは載せていない。7月27日に重みが出たとして、個人の環境で動かす話にはならないと見ている。
もうひとつ。Moonshot は7月19日、需要が GPU 容量の上限に迫ったとして新規サブスクリプションを一時停止した。既存ユーザーへの影響と API への影響は明示されていない。重み公開が予定どおり進むかも含めて、この記事を読んだ時点での再確認をおすすめする。
筆者ならこう扱う
K3 は「安いオープンウェイトモデル」という枠から出た。フロントエンドのコード生成で1位を取ったベンチマークがある一方、思考モードを切れない設計のせいで単純作業の単価は高くつく。
筆者なら、まず OpenRouter で自分の典型的なタスクを3つ投げて、推論トークンを含めた実費を測る。短い質問、中くらいのコード修正、長文の要約あたりを選べば、自分の使い方の分布が見える。そのうえで固定の前置きをキャッシュに乗せる構成にして、$3 と $0.30 の差を取りに行く。
この2段階を踏まずに表示価格で他モデルと比較しても、請求書を見たときに合わない。乗り換えるかどうかは、自分の使い方で決めるのがいい。
コーディング支援のモデル選定については複数のAIエージェントを統合するツールの制作記事でも扱っている。