「プログラミングは難しそう」「自分には無理」。この思い込みで、作りたかったアプリを諦める人は多い。でも今は、コードを1行も書けなくても、日本語でAIに頼むだけで“動くアプリ”が作れる時代だ。この入門シリーズは、まったくの未経験から「自分専用の小さな道具」を1つ完成させ、公開するところまでを、7ステップで一緒に歩く。最初の一歩は、力を抜いて読むことだけでいい。
バイブコーディングとは?「雰囲気で」コードを書かせる作り方
バイブコーディング(vibe coding)は、人間は「こういう物が欲しい」と言葉で伝えるだけ、コードはAIに書かせる作り方のことだ。2025年にAI研究者のアンドレイ・カルパシー氏が広めた言葉で、英語辞典の「今年の言葉」にも選ばれた。ざっくり言えば、「細かい文法は気にせず“雰囲気(vibe)”でAIに任せる」スタイルを指す。
あなたが書くのは「日本語の指示」、AIが書くのが「コード」。料理にたとえるなら、あなたは「こういう料理が食べたい」と注文する人で、AIが調理する人。レシピや包丁さばきを覚えなくても、注文の仕方さえ分かれば、料理は出てくる。
これまでの学び方と、どこが違うのか
プログラミングに挫折した人の多くは、同じ道をたどっている。入門書や学習サイトで文法から始め、変数・関数・ループと進むうち、「で、これがいつ、作りたかったアプリになるの?」と距離の遠さに気づいて手が止まる。作りたいのは家計簿アプリなのに、やっているのは文法ドリル。このギャップが挫折の正体だ。
バイブコーディングは順番が逆になる。最初に「作りたい物」をAIに伝え、その日のうちに動く物が出てくる。文法は、必要になった場面で「ここはどういう意味?」とAIに聞けば、その場で説明してくれる。料理にたとえるなら、調理師学校に通ってから初めて包丁を握るのが従来の学び方で、今夜の晩ごはんを作りながら覚えるのがバイブコーディング。どちらが続くかは性格にもよるが、「作りたい物が先にある人」には後者が圧倒的に向いている。
未経験でも「本当に」作れるの?
結論から言うと、作れる。ただし正直に書くと、「丸投げ」だけでは“ちょっと触って終わり”の物しかできない。カルパシー氏自身、最初の丸投げスタイルは「週末の使い捨ての遊び向け」だと言っていた。人に使ってもらえる物まで仕上げるには、「丸投げ」と「完成」のあいだにある“進め方”が要る。
このシリーズは、まさにそこを埋めるためにある。実際、このサイトの運営者もプログラミングを体系的に習っていないが、バイブコーディングだけで実アプリを7本作って公開している。特別な才能ではなく、進め方を知っているかどうか。その差だけだ。
例えば、最初の1本はこんな流れで出来る
イメージが湧くように、このシリーズで実際にやる流れを先に見せておく。題材は、ブラウザで動く小さなメモ帳だ。
- AIチャットに「ブラウザで動く小さなメモ帳を、1つのHTMLファイルだけで作って」と日本語で頼む(入門3・4)。
- AIが出したコードをコピーして、パソコンのメモ帳に貼り、
memo.htmlという名前で保存する。 - そのファイルをダブルクリックすると、ブラウザにあなたのメモ帳が表示される。文字を打って「追加」を押せば、メモが並ぶ。
- 「削除ボタンも付けて」と続けて頼めば、機能が1つ増える(入門6)。
- 最後に、無料の公開サービスに置いてURLを発行し、家族や友だちに送る(入門7)。
コードを書く場面が1度も出てこないことに注目してほしい。あなたがやるのは、日本語で頼む・コピーして保存する・ダブルクリックする、の3種類だけ。この5手を、シリーズで1手ずつ丁寧にやっていく。
ノーコードとは何が違う?
「それってノーコードツールと同じでは?」とよく聞かれる。似ているが、自由度が違う。
- ノーコード … あらかじめ用意された部品を並べて作る。早いが、ツールが想定した範囲しか作れない。
- バイブコーディング … AIが本物のコードを書くので、「こんな機能が欲しい」を後からいくらでも足せる。自分だけの細かい要望に応えやすい。
「決まった型でいいなら速いノーコード、自分仕様にこだわるならバイブコーディング」。まずはこの理解で十分だ。
向いている物、向かない物
正直な線引きも書いておく。何でも作れる魔法ではない。
- 向いている:自分や身近な人が使う小さな道具。メモ帳・家計簿・タイマー・チェックリスト・写真の整理など、「あったら便利なのに」と思っていた物。ブラウザで動く物なら、その日のうちに形になることも珍しくない。
- 向かない(最初の題材には):お金や個人情報を大量に預かる本格的なサービス、大人数で同時に使う業務システム。この規模は「動く」だけでは足りず、安全性や運用の専門知識が要る。作れるようになってからの話だ。
境界線は「失敗しても困るのが自分だけかどうか」で引くと分かりやすい。困るのが自分だけなら、どんどん試していい。
始める前の、よくある不安3つ
- 「英語ができない」:問題ない。日本語で頼めば日本語で返ってくる。エラー文だけは英語で出るが、それも丸ごとAIに貼れば日本語で説明してくれる(入門5で扱う)。
- 「数学が苦手」:このシリーズで作る範囲に、数学はほぼ出てこない。必要になったときも、計算はAIの担当だ。
- 「パソコンが古い・スペックが低い」:AIチャットはブラウザで動くので、ネットにつながる普通のパソコンなら足りる。高価な機材もソフトの購入も要らない。
「AIは間違えないの?」への正直な答え
間違える。コードが一発で動かないことも、動いているように見えて細部が違うこともある。ここを隠して「誰でも簡単!」とだけ言う紹介は、あとで挫折を生む。
ただ、間違いへの対処までAIと一緒にやれるのが、この作り方の面白いところだ。エラーが出たら、その文をそのままAIに貼れば、原因の説明と直したコードが返ってくる(入門5で練習する)。「間違いが出る→貼って直す」までを1セットの作業と考えれば、怖さはほとんど消える。プロの開発も、実はこの繰り返しで回っている。このシリーズも、AIの出力が毎回完璧に動く前提では書かない。詰まる場面を含めて、抜け方ごと渡していく。
先に知っておくと楽な、4つの言葉
専門用語は基本いらないが、この4つは今後の記事にも出てくるので、ざっくり掴んでおくと読みやすい。
- コード … AIが書いてくれる、アプリの設計図兼本体。英数字の長い文章に見えるが、読めなくていい。
- HTMLファイル … ブラウザで開ける形式のファイル。このシリーズの最初のアプリは、これ1つで完結する。
- ブラウザ … Chrome や Edge、Safari のこと。作ったアプリの「実行場所」にもなる。
- プロンプト … AIへの頼み方・指示文のこと。入門3のテーマで、うまいプロンプトはうまい注文と同じ。
このシリーズで、あなたが辿り着く場所
この入門7本を順番に読み終えるころには、あなたは「アイデアを思いつく → AIに頼む → 動かす → 直す → 公開する」の一周を、自分の手で回せるようになっている。次の記事から、実際に手を動かす準備に入る。
- (この記事)バイブコーディングとは
- 道具をそろえる(AIツール選びとセットアップ)
- 最初のプロンプト(AIへの伝え方)
- はじめての“動くアプリ”を1本作る
- エラーが出たときの対処
- 壊れないように育てる
- 作ったアプリを公開する
お金の話も先にしておくと、始めるのに必要な費用はゼロ円だ。AIチャットは無料プランで始められ、作った物を動かすのもブラウザだけ。有料プラン(月20ドル前後)や公開用のサーバーは、続けたくなってから検討すれば足りる。「まず無料で1本」が、このシリーズの前提になっている。
身構えなくていい。今日は「自分にもできそうだ」と思えたら、それで第一歩は踏めている。
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